「お琴っていい音だね」。ある日曜の夜、おすし屋さんのすみっこで、手が届きそうな程に近いお客さんを前に演奏する「箏さとわ会」。一人のおばあちゃんがくしゃくしゃの笑顔で近づいてきてそう言った。この日は、お孫さんが企画した家族揃っての食事会、その言葉は、この日、家族の大きな宝物になった。だっておばあちゃんは、ずっと音のない世界で暮らしていたから。でもこの日は聞こえたんだね。取材班が偶然に出くわした、おばあちゃんと家族の心の『琴線』に届いた、弦の調べのお話し。
手が届きそうな演奏会
小さな演奏会が開かれたのは、釧路市末広の「鮨茶寮・四季彩」。店内で生の音楽も味わえたなら、料理ももっと美味しくなるはず―という佐々木雄二郎社長の提案と、「琴の演奏を気軽に楽しんでもらいたい」と考えていた、箏さとわ会主宰の橋本はるみさんとの出会いで実現した。
食膳を目の前に2台の琴が現れた。つまびかれていく弦。ビンビンと音と振動が体に伝わってくる。こんな力強い楽器だった?『お琴』って。
そこに、満月のようにまぁるく輝く笑顔でやって来たおばあちゃんは、堺一枝さん(83)。足が不自由らしく、息子さんの勝平さん(58)が傍らでしっかりと支えていた。夢中で拍手する瞳の奥に、輝く小さな雫が見えた。
音とは縁のない生活
一枝おばあちゃんが、耳が不自由になり始めたのは60代の頃。症状は年々進み、加えて補聴器が嫌い。ほとんど聞こえなくなった今は、音とは縁のない生活を続けている。
この日は孫の幸子さん(28)の企画で、家族5人でのお食事会。演奏会と重なったのは偶然だ。席は、演奏会場には背を向けたカウンター。とはいえ狭い店内。演奏が始まると、その響きは、壁や天井、空気をつたわり店中に響きわたった。
食事会から始まって
「お琴っていい音だね」。おばあちゃんの一言に、家族が驚いた。
「母は音のない世界にいます。でもあんな近くで演奏してもらえた。顔で響きが伝わっているのが分かり、胸がいっぱいになりました。食事に誘ってくれた娘、演奏会を開いてくれたお店、演奏してくれた方たち。それぞれとの出会いが、聞こえないはずの母に音を届けてくれたんだと思っています」。息子の勝平さんは『出会い』という言葉何度も繰り返した。
「わたしも感激。近寄りがたいと思われがちな琴の庶民的な楽しさを、もっと知ってもらうためにも、沢山の場所で演奏していくことが自分の務めと、実感しました」とは、さとわ会の橋本さん。その指がつまびいた響きは、多くの出会いをつむぎながら、その人の胸へ響き返していたんだな。
琴の気軽な楽しさを
箏さとわ会の橋本さんは「チャンスがあればどこででも演奏したい。琴は若い人にも楽しめる創作音楽も多いんですよ」と話しています。問い合わせは0154ー42ー9859まで。 「じゅう箱のスミ」では3月上旬発行予定の11号に掲載を希望する市民活動情報を募集しています。FAX0154-22-7363か電話090-1644-3855で待ってま―す。HPでは最新情報も更新中。
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