4月に創刊した隔月刊の市民活動応援マガジン「じゅう箱のスミ」。その第1号の特集記事で取り上げた、寝たきりの奥様の介護を9年間続ける釧路市の野瀬義昭さん(72)の講演会が22日夜、老人保健施設星が浦で開かれた。炊飯器のスイッチも入れたことがなかった亭主関白が今や、介護、炊事、家事全般を徹底的なこだわりで行う日々を「男子厨房に入る」と題したその記事は予想を超える大反響を呼び、目下、野瀬さんには講演依頼が続々。「わたしたちを社会から置き去りにしないで―」。野瀬さんが街のスミから発信した小さなメッセージが、静かにみんなの心に届き始めている。
数少ない社会参加の場
「じゅう箱のスミ」をきっかけに実現したこの講演会。当初は職員研修の予定が、町内会にも声をかけたところ、あわせて100人余りもの人が集まった。元教員の野瀬さんも「緊張するなぁ」とちょっとドキドキ。
この日、妻の和子さんはこの施設にお泊まり。「こうやって預かってくれるところがないと、夜の外出はできないんです」と野瀬さん。在宅介護=24時間介護。でもそんな生活はなかなか理解されず、時には誤解を生むこともあるそう。この日の講演でも親類のお通夜を和子さんを施設に外泊させることができず欠席し、「人でなし!」「恩知らず!」とののしられた苦い体験も語った。
「施設利用はまだまだ施設側の都合が優先で、利用者のニーズは後回しになっているのが現状」と訴える言葉に、施設職員のみなさんも神妙な面持ち。
この日の野瀬さん、なんだかちょっとオシャレ。いつもは自宅で和子さんと2人きりの生活を送る野瀬さんにとっては、こうした活動が数少ない「社会参加」の場として、自分自身の励みにもなっている。「話しを聞きたいと声をかけてくれることが嬉しい。張り切ってやりますよ」と顔を引き締める。
「じゅう箱」効果で講演依頼殺到
とはいえ「じゅう箱」の反響は予想以上。紙面に載せた自宅の電話に早朝5時から「感動していてもたってもいられなかった」とかかってきたことも。団体で野瀬さん宅を訪問したいという嬉しい申し出もあった。
なかには記事中に紹介した野瀬さんが調合して作った化粧水が和子さんの肌をピカピカにしたエピソードに興味を持った女性から「長く夜の仕事をしているが、肌が荒れて何を使ってもダメ。試してみたいので作り方を教えて」という問い合わせまで。9月には、弘宣寺80周年記念事業として招かれ、3時間にもわたる講演も行った。
当たり前の仲間として
「わたしたちは、本当に重箱のスミっこの小さな存在だが、こうした介護生活の実態を多くの人に理解してもらうこと。そしてごく当たり前の地域の一員の一人として認められることが一番の願い」と野瀬さん。ホントにわたしたちに求めているのは、特別の手助けじゃなくて、当たり前の仲間として一緒に生活していくことナンダ。
講演会前に、施設に外泊中の和子さんのお部屋を訪問。何度もお宅に遊びに行っているのでもう顔なじみだけど、最近ちょっとご無沙汰してた。「約束の“お寿司パーティー” 実現するね!」。枕元でそっと指切りする取材班だったのだ。
みんなで考えよう
野瀬さんは、希望があればこうして体験を語ったり、または自宅での介護生活の見学も受け付けたいとおっしゃっています。問い合わせは52―1965へ。
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