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じゅう箱のスミ

2006.JANVOL.10

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なおちの つっついちゃった

あいさつ並木

前号の表紙に登場した津別町在住の立体造形家、シゲチャンこと大西重成さんを講師に体験講座「コルクアートで遊ぼう!」を12月3日開催した。30人余りの受講者の中に、親の付き添いなしで参加した10歳の少年がいた。顔に見覚えがある。

「ゆび相撲で闘ったよね!」と言うと、「うん!」とうれしそうに笑った。『ゆび相撲巡業』を始めて5年余り。この辺りの子どもたちに知った顔が増えた。この少年、何回やっつけても挑戦してきたのでよく覚えてた。

この日もわんぱくぶりを発揮した。講師のシゲチャン先生にはタメグチ。講座の間中も先生にじゃれたり、からんだり、解説に口を挟んだり。くっついて歩いては楽しそうに笑う。お昼休みにも、シゲチャン先生の隣に当たり前の様にちょこんと座り、家から持ってきたお弁当を広げた。「ねぇ、ひとつ食べない?」。これまた当たり前のようにおにぎりを差し出した。シゲチャン先生が「もう食べたから」と断ると、がっかりする訳でもなく「そっか」とおにぎりを戻し、また馴れ馴れしい口調でしゃべりだした。

そんな光景を見てるうちになんだかホッとした気持ちになってきた。シゲチャンさんは国内外のデザイン業界でも名高い、第一線のアーティスト。でも少年にはそんなこと関係ない。出会って好きになったから、くっついていたい。おにぎりもあげる。でも無理して食べなくていいよ。格好つけたり顔色を伺ったり、相手の出方を見たり―そんな計算なんて全然ない。上辺だけの敬語に換えられない、もっとあったかな「敬意」を、そのやんちゃぶりに感じたから。

このわんぱく坊主、会場に腕時計を忘れた。届けてあげようと思い、自宅に電話すると「『あいさつ並木』で待ってて!」と言う。そんな並木あったっけ?結局、学校で待ち合わせた。「さっき言ってたの、どこ?」。指さしたのは、目の前の、街路樹が並ぶ学校横の細道。木の陰に隠れるように看板が立っていた。見馴れたこの小道に、そんな名前があったなんて知らなかった。

わんぱく坊主は時計を受け取ると、ピッと両手を揃え「ありがとうございました!」と深々頭を下げ走り去った。

忘れ物を届けてもらったのは、私の方かもしれない。「あいさつ並木」に響く小さな靴音が、胸をほんわかあっためた。

(じゅう箱のスミ編集長・チャレンジ隊代表・佐竹直子)

Photo:力作揃いのコルクアートの前でシゲチャン先生と参加者。


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