名人 File Number 001 トバづくり名人 |
倉嶋名人は、毎年、50本ものトバを作る。もともとは釣り名人。渓流釣り歴は半世紀余り。 子どもの時から、釣った魚は全部、自分でさばく徹底ぶりがこの味を作った。
11月を過ぎ、やや油の抜けた頃のサケを、三枚におろす。身を4本に割り、食べやすいように最初から切り身を入れる心配りも忘れない。 水で洗い、一晩天日に干して水を切る。この水切り具合も味のポイントだ。
醤油・酒・みりんの下味につけること一昼夜。計量カップで計ったりなんてしない。長年の舌加減にお任せ。 添加物や余計な調味料は一切入れず、味付けはたったこれだけ。
どうやら名人の“舌”一本の感が、絶妙の味を生み出しているようだ。 50本のサケを一度に、タレにつけ込むステンレス製の桶は、なんと、鉄工場に注文したオーダー品というから驚き。
自家製やぐらで、天日に干して2週間。桜チップで丸1日いぶし燻製。さらに1週間干す。こうして手間ひまかかった「倉嶋トバ」 が出来上がる。
「ひとに見せると、全部もっていかれちゃう」と苦笑いしながらも、冷凍庫からこっそり出した今シーズンのトバ。 発色する薬も使っていないから、市販品と比べると、黒ずんでいるし光沢もない。見てくれは良くないが、口にすると、柔らかく、 なんとも言えない甘みと、コクが広がる。いくら食べても、不思議にもたれないのは、余計な調味料を使っていないからだろうか。
「毎年、札幌と東京の子供たちに送って、喜んだ声を聞くのが楽しみなんだ」と話す“倉嶋名人”。隠し味は、あったかい親心だった。 (小椋幸子)
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