名人 File Number 002 花火名人 |
奈良輪名人が扱う花火は、線香花火に代表される「おもちゃ花火」ではない。夜空に大輪の美しい花を咲かせる、本物の打ち上げ花火だ。
イベント好きが高じ、20代で、独学で「花火打揚(はなびうちあげ)従事者」の資格を取得。以来22年間、毎夏の別海町矢臼別の夏祭りをはじめ、町村の小さな集落で“奈良輪花火”を打ち上げる。
別海町の農村出身。大きな花火大会がある市街地から遠く離れた集落でも、かつては住民の手でささやかな花火が打ち上げられた。小さくても、頭の真上で打ち上がる花火は、夏の何よりのぜいたくだった。最近は、不況の影響で、そんな光景も消えた。「小さなまちの、小さなお金でもできる花火を打ち上げたい」。幼い頃、牧草地の上で見上げた夏の夜空の思い出が、名人の“花火熱"に火をつけた。
予行演習なんかない。緊張のぶっつけ本番だ。毎夏、全国の有名大会を訪ねては、光と音の微妙なバランスや“間”を研究する。
危険も隣り合わせ。火薬が点火し、指を骨折したことも。それでもやめなかった。打ち上げた瞬間の会場のどよめき、「良かった―、涙が出た―」と言う声が頭から離れないから。「好きでやってること、趣味だから」と、火薬などの実費以外は受け取っていない。商売でもないのに、たった7発−3分間の花火を打ち上げるために、釧路から厚岸町末広(まびろ)まで走ったこともあるというから、名人の“花火熱”そうとう高い。
「小さな田舎でも、元気に生きる人たちがいることを花火で見せたい」。奈良輪名人は、この夏も、一人で小さな夜空を飾り続ける。 (小坂正雄)
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