9月のある日曜日、取材班は標茶町の「塘路64番地」という森に出動。釧路湿原を展望する絶景とともに迎えてくれたのはNPO法人トラストサルン釧路のみなさん。行われていたのはシカの食害から木々を守るために、ネットなどで幹を優しく包む作業。釧路湿原を再生するための環境省との協働事業で、今や全国的に知られた自然系NPO。でも、山の急斜面を、背丈程もある草木をワサワサかきわけながらなぜか笑顔で登っていく姿を見て、取材班はワカッタ。理屈じゃない。ただ自然が大好きな人たちなんだ。
森の傷跡、治したい
塘路64番地は52?程の山並み。「上空から見るとここだけ裸なのがすぐ分かる。伐採された傷跡。森に戻したいって急いで手に入れたんです」と理事長の黒沢信道さん(47)。
「トラスト」とは、自然を守るために土地を購入し保護地とする住民活動のこと。トラストサルン釧路でも、1988年に任意団体として発足以来、全国から寄せられた協力金で186?の土地を保護地として購入している。ここもその一つだ。
この日は、木々を食害から守るには何が一番効果的か比較するために、金網、プラスチックネット、パオパオという不思議な紙の三種で幹を包み込む作業。取材班も作業に参加したが、資材を担いで斜面を登り降りするだけでもうクタクタ。それに反して、みなさん笑顔なのはなぜ?!
この日、取材班が「師匠!」と呼ばせて頂いた、チェンソー使いも鮮やかな富井隆さん(65)は、湿原を守るために道東にやってきたような人だった。新潟県出身。東京都内で30年余り働いていた。都会を離れ北海道へ移住したいと漠然と考え始めた頃、フッと耳にしたラジオから流れてきたのが、トラストサルンの杉沢拓男事務局長のインタビュー。それが縁で、50歳で標茶町塘路に移住。今では、湿原の保全活動に生活のほとんどをあてている。
「こういう作業はやりぱなしじゃダメなんだ。どうなったかちゃんと見守り続けてやることが大事。あんたちもそうだよ」と帰り際の取材班に一言。
好きだから、守る
「人間が苦手。自然、森や川の方が好きだな。もちろん人が暮らすためにある程度の開発は必要。でも守れる方法もあるんじゃないか。自分でできることはやっておきたいっていう、自分の好きな物への義務感かなぁ」。富井さんの小さなつぶやきに、自然への愛情がたっぷり詰まっていた。
本当はキノコ採りがやりたい!!
湿原再生関連の会議で、いつもバリバリ発言している黒沢さんも、もともとは野鳥好き。山の中では少年の笑顔だ。「保護しなくても、キノコや木の実が採れて野鳥が色々見られるような豊かな自然が夢。本当は食害防止より、キノコ採りがやりたいんだよう!」。
この日ネット類で包んだ木は約50本。無事に冬を越えたか、来春またこのアツイ“自然人”たちと、見に来たい。
みんなで自然にふれあおう
トラストサルン釧路では、湿原や森を守り育てる活動にもっと多くの人に参加してもらおうと、さまざまな市民参加事業を行っています。遊歩道を歩くのとは全然違うワイルドな自然に、体でふれあおう!問い合わせは23―1807へ。
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